2018年01月26日

金曜日の小説 第一章⑧ 男とはさもありなん

 もちろん、そんなうめき声が正確に大竹先生の方に

伝わったわけではなかった。

 しかし――大竹先生としては思いがけない光に

すっかり動揺してしまった。

 そのために表情が引きつり、フラッシュの光のなかで

相手は誰なのかと探る目つきとなった。

 そういった目は、普段の生活指導の先生が持つ厳格さ

を見せていた。

 
 その目線に合って、どうしたことか・・・ブーは持って

いたカメラを今度はまともにその被写体に向けて、

シャッターを切った。

 何故、そうしたのか、後になっても明確には言えない

のだが、おそらく、ブーはこのような危なっかしい状況で、

一瞬、身を守るにはこれしかないと判断できたのであろう。

 それはとっさの緊急避難に似た動作だった。

 今回はその明々と光るその中心部に大竹先生の顔が

くっきりと浮かんだ。


 やや離れた門のところで見守っていたタケシにも

あるいは勇太にも、「えっ――」と叫ばせるに十分なほど、

その被写体は明確に大竹先生だということを示していた。


 この光はまた、大竹先生の側をも、極度な恐怖に

陥れた。

 大竹先生は急いで顔を女の子の背後に隠し、立ち

上がりながら2、3歩後ろに後退しようとした。

 その瞬間、足が池の土手をつるりと滑り、そのまま

ズトーンと池に落ちた。

 もちろん、女の子も一緒になって池に飛び込んで

いったのだ。


 それを見た3人は坂を転がるようにタケシのところに

もどると、はーはーとした息の中でようやく「あれ――あの

うちの先生だ」とタケシの耳元で言った。

「あの――たしか生活指導の大竹だ」

「オレたちにも見えたよ。あれはたしかに、大竹先生だ」

とタケシも、急いでこの場を離れながら言った。

「大竹先生と言えば、あの不純異性行為の大竹だよな」

と走りながら勇太が言った。


 タケシたちは後も振り向かずに、一気に逃げたのだが、

ようやく明るい場所まで来ると、

「あの不純異性行為の先生が女の子のお尻を触ってた

 んだよね」

とアッチャンは叫びにも似た声で言った。

「あんまりじゃないか。僕たちにはいつも注意しておきな

 がら、自分はあんことをしてさ」

とさらにアッチャンは怒りがおさまりそうにない口調だった。

「そうだ、そうだ。この前の夏休みの注意事項のプリント

 にも何度も不純異性交為という言葉が書かれていた

 じゃないか」

と勇太が情報通らしく、それに付け加えた。


 たしかに、大竹先生というのは生徒の生活指導を

担当している関係上、やたらと不純異性行為という

言葉を使いたがるのだ。

 男女交際はどんなに真剣な付き合いでも、彼に

かかると不純ということになる。

 「自分で不純異性行為はいけないと言っていながら、
  自分で実行するとはどういうこっちゃ」

とさも歯がゆそうに勇太も怒りを見せた。

 この際、彼らの正義感がこのようなことは許せない

という雰囲気なのだ。

 特に正義感の塊みたいなアッチャンは異常なほど

興奮し、異常なほど腹を立てているのであった。

 そこへ行くとタケシの方は――男とはさもありなん―

―といったくらいの余裕がある。

 先生も男なんだから、まぁーいいさといった程度の

いい加減さを持っているのだ。

 だから、もともと大竹先生が「不純異性交為は

いけません」と言ったところで、そんな言葉をあまり

真剣に受け止める気持ちもないし、ときにはそんな

誘惑にかられて悪さをしてしまう自分であると自覚も

している。


 そのとき・・・ノンが

 「大竹先生が、女の子から少し身を離そうとする

  前に、『行こうよ、行こう』と言っていたよう

  だったな」

とブーに言った。

  「うん、何かそんな言葉を言っていたよ」

とブーも思い出したようにうなずいた。

 たしかにお尻を触っているブーの指がアッチャンに

交代しょうとしたとき、そして大竹先生が女の子から

身を離そうとしたその寸前のとき、何やら小声で

ささやいていたようだった。

 そのときはあまりの驚愕のせいで、はっきりとは

わからなかったが、今考えると何か「行こうよ」と

言っていたような気がするのである。

 すると、それを聞いていたアッチャンが丸い顔に

目をさらに丸くして「どこに行こうというんだろうね?」

と言ったのだ。

「あほか?お前、二人が行こうと言えばホテルに

 決まってるじゃねーか」

と言うが早いか、ノンがアッチャンの三日月額の

真ん中のあたりを、またピシッと叩いた。

「痛い。また叩いたりして」

と言いながら、アッチャンはやや納得できたという

顔をした。

金曜日の小説 第一章⑧ 男とはさもありなん
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