2018年02月03日

金曜日の小説 第二章① 心にきめた女の子

 タケシには、ヨッコと呼ばれる心にきめた女の子がいる。

 彼女は背が高く、やせていて、ややウエーブのかかった

黒髪が美しい女の子であった。

 中学校のとき彼女はタケシの隣に座っていた。

 彼女はかなり勉強ができたし、タケシがわからないときは

いつも助けてくれるといった存在だった。


 そんな中学時代のある日、クラスで先生が

  「アメリカの首都はどこだ」

ときいた。

 彼はまわりを見渡して、タケシを指差し、

  「答えなさい」

と言ったのだ。

 タケシはアメリカの首都の名前を知らなかった。

 すると隣のヨッコが彼をつついて、小声で言った。

   「ほら、あの駅の近くの靴屋さんよ」

…あいにく、駅の近くには2軒の靴屋があった。

 ひとつは『ワシントン』という靴屋で、もう一つは

『ヒカリ』という靴屋だった。

 運の悪い事に、タケシが最初に思いついたのは

『ヒカリ』のほうだった。

   「ヒカリ…」 

タケシは勝ち誇ったように答えた。

…クラスの全員がどっと笑い転げた。

 それは彼の中学時代を通してもっとも恥かしい

経験だった。

 その結果、彼は自分の気持を彼女に打明ける

勇気を喪失してしまったのである。


 それにしても、先生が聞いたのはアメリカの首都

である。

 誰が考えても「ヒカリ」などという名前であるはず

がない。

 そんな間違いを犯すのだから、タケシのとんちんかん

振りも相当なものであった。

 先生に指名されて起立したままの状態だったから、

タケシの思考力も消えていたのである。

 彼の答えは、ヨッコの助け舟に、まさにそのまま

乗っておくという状態からのものだった。

金曜日の小説 第二章① 心にきめた女の子
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