2018年02月09日
金曜日の小説 第二章② 恥かしい出来事
それから何日かして――勇太がやって来て、
「いいか、おれの爺ちゃんの家はヨッコの家の隣なんだ。
二階から見ると、彼女の家が見渡せるんだぜ。
驚くな。ヨッコの家の風呂は塀のすぐ向いなんだ。
塀がすこし高すぎて中が見えないけどさ…でも
はしごを立てて、それに登れば、中は丸見えよ。
すごい考えだろう。」
「すごーい。おれ行くよ。」
タケシは小さな声で、興奮しながら言った。
―次の日、タケシは急き立てられるように、計画を実施
することにしたのだ。
タケシは早めに夕食を済ませ、勇太の家に押しかけ、
勇太に協力するように説き伏せた。
二人は勇太の部屋で辛抱強く風呂の明りがつくのを
待った。
それは時間の停止を思わせる長さだった。
ようやく灯がともると、二人は、はしごを両家の仕切に
ある溝に立てた。
その溝は幅が約一メートルほどであり、中の土泥から
異様な臭気が上がって来る。
その泥の中にはしごを立て、塀の向こうを覗こうと
いうのだ。
タケシが登り始めると、はしごが左右にゆれた。
彼は急にしがみ込み、はしごを支えている勇太に
「ちゃんと持っとけよ」
と言った。
「ちゃんと押えてるじゃねーか、動くはずがねーよ」
と勇太はふてくされたように言ったのだ。
はしごの上でタケシは心臓がどんどんと打っている
のがわかった。
タケシは口を大きく開けて、はーはーと息を吸い
こんだ。
奇妙な興奮が体じゅうに沸き上っていた。
「ヨッコの裸が見られるんだ」
彼はおどおどと塀の上に顔をあげた。
窓ガラスは曇っていて、内部をはっきり見るため
には、もっと近づく必要があった。
彼は体を塀の上に乗出しながら、顔をできるだけ
ガラスに近づけた。
ようやくにして、よくのぞける位置についたのだか、
ガラスが曇っているため、ぼんやりとしか見えなかった
んだ・・・
でも長く白い女性の太ももらしきものが、ちらりと
見えたのだった。
「きれいだぁ…」
女性の隠れた部分を見るなんて、――小さい子供の
頃のことは別にして、同じ年頃の女性の――秘められた
部分を見るなんて、初めての事だった。
体を拭うタオルのなめらかな動き、それにつれて
かすかにゆれる彼女の足、それがタケシの想像力を
かき立てた。
彼は体全身が震えるのを感じた。
そして次にははしごがゆれ、塀からはずれそうに
なった。
「だいじょうぶか」
勇太が下から、声をかけた。
「うっ・・・大丈夫じゃないよ……」
彼はかすれるような声で答えた。
しかし、気持のなかには、目の前のすごい光景に
必死で集中する以外、何の余裕もなかった。
すると、ガラスのくもりが、さっとひいた。
そして中がすっかりのぞけるようになった。
彼は視線を上に上げて、彼女の顔を見た。
「ぎょっ…彼女の母親じゃんけ」
見えていた足は、なんのことはない母親のもの
だったんだ。
突然、何かまるで矢のように心臓に突き刺さる
感じを受けた。
母親もまた彼を見ていたのだ。
彼の目線をずばりと、見据え、怒りに燃える母親の
目があった。
その瞬間、全身に震えが走り、はしごは大きくゆれ、
彼はもんどりうって足元の溝のなかに、あお向けに
落ちたのだった。
その痛みはかつて経験したことのない激しさだった。
その上、溝の臭い泥のかたまりがあおむけに落ちて
いるタケシの口の中に跳ね返って来た。
その臭いときたら、そしてその味わいとは――何とも
異様な、つかまえ所のない生ぬるい味で、一生忘れ
られない嫌なものとなった。
これが第二の恥かしい出来事で、彼が自分の記憶の
なかからできれば、ぬぐいさりたいと思っていることだった。

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「いいか、おれの爺ちゃんの家はヨッコの家の隣なんだ。
二階から見ると、彼女の家が見渡せるんだぜ。
驚くな。ヨッコの家の風呂は塀のすぐ向いなんだ。
塀がすこし高すぎて中が見えないけどさ…でも
はしごを立てて、それに登れば、中は丸見えよ。
すごい考えだろう。」
「すごーい。おれ行くよ。」
タケシは小さな声で、興奮しながら言った。
―次の日、タケシは急き立てられるように、計画を実施
することにしたのだ。
タケシは早めに夕食を済ませ、勇太の家に押しかけ、
勇太に協力するように説き伏せた。
二人は勇太の部屋で辛抱強く風呂の明りがつくのを
待った。
それは時間の停止を思わせる長さだった。
ようやく灯がともると、二人は、はしごを両家の仕切に
ある溝に立てた。
その溝は幅が約一メートルほどであり、中の土泥から
異様な臭気が上がって来る。
その泥の中にはしごを立て、塀の向こうを覗こうと
いうのだ。
タケシが登り始めると、はしごが左右にゆれた。
彼は急にしがみ込み、はしごを支えている勇太に
「ちゃんと持っとけよ」
と言った。
「ちゃんと押えてるじゃねーか、動くはずがねーよ」
と勇太はふてくされたように言ったのだ。
はしごの上でタケシは心臓がどんどんと打っている
のがわかった。
タケシは口を大きく開けて、はーはーと息を吸い
こんだ。
奇妙な興奮が体じゅうに沸き上っていた。
「ヨッコの裸が見られるんだ」
彼はおどおどと塀の上に顔をあげた。
窓ガラスは曇っていて、内部をはっきり見るため
には、もっと近づく必要があった。
彼は体を塀の上に乗出しながら、顔をできるだけ
ガラスに近づけた。
ようやくにして、よくのぞける位置についたのだか、
ガラスが曇っているため、ぼんやりとしか見えなかった
んだ・・・
でも長く白い女性の太ももらしきものが、ちらりと
見えたのだった。
「きれいだぁ…」
女性の隠れた部分を見るなんて、――小さい子供の
頃のことは別にして、同じ年頃の女性の――秘められた
部分を見るなんて、初めての事だった。
体を拭うタオルのなめらかな動き、それにつれて
かすかにゆれる彼女の足、それがタケシの想像力を
かき立てた。
彼は体全身が震えるのを感じた。
そして次にははしごがゆれ、塀からはずれそうに
なった。
「だいじょうぶか」
勇太が下から、声をかけた。
「うっ・・・大丈夫じゃないよ……」
彼はかすれるような声で答えた。
しかし、気持のなかには、目の前のすごい光景に
必死で集中する以外、何の余裕もなかった。
すると、ガラスのくもりが、さっとひいた。
そして中がすっかりのぞけるようになった。
彼は視線を上に上げて、彼女の顔を見た。
「ぎょっ…彼女の母親じゃんけ」
見えていた足は、なんのことはない母親のもの
だったんだ。
突然、何かまるで矢のように心臓に突き刺さる
感じを受けた。
母親もまた彼を見ていたのだ。
彼の目線をずばりと、見据え、怒りに燃える母親の
目があった。
その瞬間、全身に震えが走り、はしごは大きくゆれ、
彼はもんどりうって足元の溝のなかに、あお向けに
落ちたのだった。
その痛みはかつて経験したことのない激しさだった。
その上、溝の臭い泥のかたまりがあおむけに落ちて
いるタケシの口の中に跳ね返って来た。
その臭いときたら、そしてその味わいとは――何とも
異様な、つかまえ所のない生ぬるい味で、一生忘れ
られない嫌なものとなった。
これが第二の恥かしい出来事で、彼が自分の記憶の
なかからできれば、ぬぐいさりたいと思っていることだった。



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